アニメ『Kanon』を鑑賞。

アニメ『Kanon』(2006-07 京アニ版)を鑑賞。ゲームからアニメ化された作品。序盤の沢渡真琴と後半部の月宮あゆ(↑)のエピソードにかけてひたすら泣ける。自然と涙が頬を伝う。舞台は日本のどこかにある雪に覆われた小さな街。高校生が携帯電話を使用していないことや街の雰囲気からして90年代前半の話なのかもしれない。時代も場所も特定はできない。どこにでもありそうな透明感のある風景(たとえば主人公の部屋)が特異な空間に対する感情移入を容易にしている。数人の美少女キャラと主人公(♂属性常識的ツッコミ)と相棒(♂属性軟派的天然系ボケ)の組み合わせが基本スタンスの美少女ゲームだが、序盤で全美少女キャラを登場させておいてメインとなるキャラのエピソードを個別に用意して攻略(?)する(沢渡真琴川澄舞美坂栞月宮あゆ)。最後の月宮あゆのエピソードでは以前の話の節々にほのめかされていたフラッシュバックの意味やOP直前の謎めいた台詞が全て明るみにだされる。『Kanon』のポイントは主人公相沢祐一の「記憶喪失」の問題にあると個人的にはとらえている。7年の空白期間を置いて舞台となる雪の街に戻ってきた祐一。美少女キャラは祐一の「記憶」とどこかで関係している筈なのだが、祐一は「記憶喪失」の状況にある。回を進めるごとに祐一は存在の儚い美少女キャラの懸命な努力と愛情に支えられて「記憶」を回復してくるが、最後のジグゾーパズル(月宮あゆ)を解くことができない。それを解こうとすると自分のなかの決定的な何かが崩壊してしまうのではないかという危惧感を抱いている。最終話にいたると(*以下ネタバレ注意)雪の街に生活する人たちの特異な世界が実は月宮あゆが夢想している世界なのではないかという問題提起が成される。第一話から登場していた月宮あゆ。どうやら彼女は祐一の「記憶喪失」と密接な関係を持っているらしい。事実は、現実の月宮あゆは幼少時に木から落下して重傷を負い現在植物状態にあり祐一の空白の7年間のあいだ病院に入院しているのだった(!)。ということは肉体的に顕現していた月宮あゆは祐一の妄想の産物(「記憶喪失」の問題も目前に居ながら事故を防げなかった罪悪感から起因していた)であったことが暴露されるのだが、彼女の周囲にいたキャラクターたちは確実に月宮あゆという存在を認めていた筈である。とすると妄想の産物だったのは月宮あゆではなく、己が常識的な性格の人間であることを露とも疑わない相沢祐一のほうだったのではないかという推測も可能である。複数の小さな世界が並列的に存在している所謂パラレルワールド的な状況と凍りつく冬から暖かい春の兆しをみせて物語は終幕する。パズル=「記憶喪失」を解いてしまうとひたすら涙しか流すしかない仕掛けが至る所に巧妙に設置されてある。涙腺を刺激する状況を原理的に駆使して魅せる。

Kanon 8 [DVD]

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