清涼in流水!入門

清涼院流水の『コズミック』『ジョーカー』(1996)読む。amazonでも近所の書店でも書籍(新品)が見当たらなかったので、中古で買いました。レビューを読むと辛辣な評価を下しているものが多かったのですが個人的には面白く読めました。情報化社会が浸透してきた今この作品(推理小説の常識を逸脱した傑作と謳われている)を読むと古い感覚があるのも否めないのですが、逆に90年代的なレトロな感覚も良かったです。著者が体験した阪神淡路大震災の経験を元に「今年、1200個の密室で、1200人が殺される。誰にも止めることはできない。」という犯罪予告状の予言通りに無差別に大量に人が殺傷される情景を淡々と描いていく荒唐無稽な設定の『コズミック』前半部は厳めしい文体と内容の空疎なキャラクターたち(被害者)のギャップに嗤えます。後半部からはJDC(探偵集団)のメンバーたちが独自の推理法を駆使して事件の謎を解いていき、前半部「問題編」に対する「解答編」になっています。推理小説はあまり読んだことがないので確かなことは分からないのですが、『ジョーカー』は推理小説マニアを自認する(?)清涼院流水さんの「推理小説入門書」のようになっていて、今まで書かれてきた推理小説の解法パターンを整理してメタ視点から批評している作品「論」といったかんじでポイントを網羅した受験参考書を読んでいるかのような気分になる作品でした。特にアスペルガー症候群を連想させる(病名を例に出すのはよくないのだけど)言葉に対する執着(登場人物固有名)とJDCメンバー龍宮城之介の「とんち推理」(ダジャレのようにみえる言葉遊びから推理していく方法)は面白かった。しかし、内容の割に読み下すのに時間がかかるのが難。ゲームバランスでいえばJDCメンバーの能力が最強すぎるので「語り」を面白くする「制限」(空間的時間的にキャラクターの自由を束縛するもの。目的を阻害する敵。通常の場合そこからの逃避行がミッションとなることが多い。)が無い。無いのでシステムとしてのバランスを楽しむのではなくて、キャラをどれだけ最強に仕上げるかという単調なレベルアップに終止している感も否めない。JDCメンバーのキャラクター描写に分量を割きすぎたり、リズム感が単調なので全体のバランスを考慮すると3割程度カットしたら「語り」がもうすこし読みやすくなったのかもしれないので、ほんとにヒマな読者しか想定していないのではないかともおもえました。ということでいくら仮想空間(読書)でレベルアップしても単調な時間(現実)は過ぎていくわけで読後はシュールで空虚な感覚に浸れます。時間があれば他の作品も読んでみたいとおもいました。

コズミック流 (講談社文庫)

コズミック流 (講談社文庫)

ジョーカー清 (講談社文庫)

ジョーカー清 (講談社文庫)